京都大学ELCAS(エルキャス)

実施レポート

[専修コース]物質の構造と機能

理学研究科 化学専攻 個体物性化学研究室

2017年5月28日

  • 実施場所

    吉田キャンパス 理学研究科6号館

  • 当日の講師

    前里 光彦 准教授

  • チューター

    留野 慎也、木村 要二郎

  • 実習の内容

    前回行った電解酸化による結晶作成の結果を調べた。電解セルから試料を取り出し、顕微鏡で観察した。その結果を踏まえたうえで、もう一度電解酸化法による有機伝導体の合成を行った。

  • 電解セルから試料を取り出す準備
  • 吸引ろ過による試料回収
  • 顕微鏡による結晶試料の観察 1
  • 顕微鏡による結晶試料の観察 2

活動を通して学んだこと

  • 前回合成したκ-(ET)2AgCu(CN)3の結晶をかき出し、顕微鏡で観察をした。3時間の計量と2週間の加電圧という手間に対して砂粒のような結晶しか取れないのを実際に目で見ると、だんだんと「研究」の大変さが分かってきた気がする。それでもきれいな六角形や菱形の結晶ができてとりあえず安心した気持ちになった。
    その後、前回と同様にκ-(ET)2AgCu(CN)3の合成を行った。前回はあまり意識できていなかったが、結晶をかき出す際に異物混入を防ぐため金属ではなくプラスチックのスパチュラを使うことや、酸素除去のために攪拌の前に窒素フローを行うこと、日光が当たらないよう試験管をアルミホイルで覆うことなど正確なデータを取るためのさまざまな手順を学んだ。特に、プラチナ電極をガスバーナーで加熱して不要な物質を取り除く作業を体験させてもらったときに、実験がいかにデリケートなものかを実感した。この感覚は、これからの研究で大事にしたい。 講義では、前回までわからなかったモット絶縁体と通常の絶縁体の違い、モット絶縁体は温度変化によって相転移するが通常の絶縁体はそうでないことのイメージを、少なくとも今は理解できた。学校の化学の授業でも学んだが、物性には電子が大きく関わっている。それに加えて、実験室の案内をしてもらったときに、原子核も電子と同様にスピンの性質を持っているときいて、新しく興味を持った。 次回以降の実習で、得られた結晶の分析をする。CuとAgの区別をどうするのだろうかと疑問に思っていたが、X線を当てて反射した波のスペクトルを観察するらしい。これは、物理の基盤コースで学んだ炎色反応やフラウンホーファー線の仕組みとと関わっていると感じた。引き続き集中して、大学の高度な研究について少しでも多くのことを体験し、学びたい。

2017年5月14日

  • 実施場所

    吉田キャンパス 理学研究科6号館

  • 当日の講師

    前里 光彦 准教授

  • チューター

    留野 慎也、木村 要二郎

  • 実習の内容

    最初に有機伝導体に関する研究テーマについて議論した。その後、電解酸化法による有機伝導体の合成方法について学び、実際に合成を行った。

  • 電解合成に使用する支持電解質の秤量
  • 合成に使用する有機溶媒の取り扱い方を学んでいるところ
  • 電解用セルに有機溶媒を流し込んでいるところ

活動を通して学んだこと

  • これから行っていく実習のテーマと目的を再確認した。有機超伝導体BEDT-TTF (C6H4S4) (以下ETと表記)塩であるκ-(ET)2Ag2(CN)3、κ-(ET)2Cu2(CN)3は、それぞれ温度・圧力と電子のスピン(それにより変化する磁性や導電性)との関係や、結晶構造がわかっている(κ-(ET)2Ag2(CN)3のAg原子をCu原子に置換したものがκ-(ET)2Cu2(CN)3である)。そして、その2つの物質を化合した結晶(κ-(ET)2AgCu(CN)3)ができるということも知られているのだが、その具体的な性質は明らかにされていない。その明らかにされていない性質を調べるのが実験の目的である。それによって、電子のスピンがある程度の相互作用によって制限され、ある程度は自由である「スピン液体」の特性の解明につながるかもしれない。今日までに何度か自宅でもテーマを復習したが、理解できなかったり理解はできてもつながらなかったりしていたものがある程度整理できてよかった。今週末に再び確認したい。 また、今回から実際にκ-(ET)2AgCu(CN)3の結晶の合成をさせてもらった。ETやAgCN、CuCNをはかりとって溶媒トリクロロエタンとアセトンニトリルに溶かしただけだが、2時間半はかかった。この後電極をさして、2週間も電圧をかけてETを酸化させるのだという。危険な物質を、数mgという細かな値だけ計りとるのは、先生から伺っていたとおり根気のいる作業だと実感した。結晶の性質を調べる以前に、2週間かけて作った結晶がうまく完成していないことも頻繁にあるらしい。このような地道な作業が、科学の発見や成果につながる大事な要素なのだと学んだ。 実習の説明でETを酸化させるという話を聞いたとき、はじめ電子の授受にかかわる広義の「酸化」の意味を知らなかったために、混乱した。化学・物理の基礎的な知識の勉強をもっともっと進めなければいけないと感じた。だが一方、完成した有機超伝導体の結晶構造を計算する話を聞いた際に、X線回折によるブラッグ反射からミラー指数を使うという、基盤コースで学んだ知識とつながる部分もあったのが嬉しかった。

2017年4月15日

  • 実施場所

    吉田キャンパス 理学研究科6号館

  • 当日の講師

    前里 光彦 准教授

  • チューター

    留野 慎也、木村 要二郎

  • 実習の内容

    電気を流す有機物について学んだ。実際に、電子供与性の有機分子と電子受容性の有機分子をそれぞれ溶かした溶液を混ぜ合わせて錯体を合成し、得られた固体に電気が流れることを確認した。

  • 物質の構造と機能_実習風景固体中の電子について学んでいるところ
  • 物質の構造と機能_実習風景合成に使用する有機分子の秤量
  • 物質の構造と機能_実習風景合成して得られた物質の回収作業

活動を通して学んだこと

  • この分野での実習で「物質の構造」をもとに新たな物質を合成して、物理・化学的な観点からその物質の性質を調べることに魅力を感じた。超伝導体は基盤コースでも学習して、ある程度は理解できていると勘違いしていたが、超伝導の中でもいくつかの分野があり、幅が広く奥も深い学問だと実感した。基盤コースでは臨界点の高いビスマス系超伝導体を使ったのに対し、今回は有機系超伝導体についての実習をした。有機物で超伝導を行う利点にのひとつについて、材料が手に入りやすく、軽くしなやかであるためにスマートフォンのディスプレイなどに応用されることを学んだ。 日本の物理化学者の権威である細野先生の著書に、磁性を持つ鉄を用いた鉄系超伝導についての話があり、その中に超伝導は「現象としてはきわめてわかりやすいのに、学問としてはおそろしくむずかしい」科学のロマンだとあった。私も超伝導には非常に興味があったが、その超伝導へ有機化学の面からアプローチするのは、新鮮でとても面白いと思う。この研究がもっともっと進めば、超伝導体自体がさらに社会に身近な存在になると思う。 物理と科学を用いた物質の構造と機能についての研究は、有機化学や無機化学、エネルギー、波動など多様な分野にまたがる非常に幅の広い学問だと感じた。場合によっては生物のタンパク質構造などにもかかわると予想する。だから、これからの実習で、視野を広く持つのを常に心がけたい。

平成29年度 実施レポート

年度別の実施レポート